善光寺法話

第38回 六波羅蜜の実践

節分が終って、季節の変わり目である立春を迎えましたが、いまだ余寒も厳しく、寒さに凍えている人も多いことでしょう。「暑さ寒さも彼岸まで」という言葉がありますように季節は確実に冬から春へ移ろい行きます。そして、春の息吹を体一杯に感じる頃にお彼岸がやってまいります。「彼岸」とは仏の悟りの世界のことを言い、遠いかの岸、彼の岸、彼岸と呼ぶようになりました。それに対して、我々が居る迷いのある世界のことを、こちら側の岸、この岸として「此岸」としています。

お彼岸は、3月の「春分の日」、9月の「秋分の日」を中心として、前後3日間を入れた7日間であり、この期間に、先祖供養のためのお墓参りに行くのが一般的となっています。昔の人々は、日が昇る東から命が生まれ、亡くなると日が沈む西の方へ旅立つとし、その西の方に仏の世界、極楽浄土があると考えました。そして、我々の住む世界である「此岸」と仏の世界である「彼岸」の最も近づく時が、昼と夜の長さがほぼ同じになる「春分の日」「秋分の日」だと考えるようになったのです。そのため、この時にご先祖様の供養を行うと、ご先祖様への思いが最も通じやすくなると考えられ、お彼岸の日にお墓参りをするという生活が定着してきたのです。

昔から人々は、我々が居る迷いと苦しみの「此岸」から、悟りの世界である「彼岸」に渡り、救われたいと強く願っていました。しかし、両方の世界をつなぐ「岸」の間には煩悩という名の川が流れており、我々の世界にある様々な迷いや苦しみを断ち切らなくては、「彼岸」に渡ることはできないのです。その川を渡る方法が「六波羅蜜」の実践であります。

「六波羅蜜」とは仏さまが我々に示してくださる、6つの正しい生き方を意味します。

1、布施 人に施しを与えること。(人に尽くすこと。)

2、持戒 戒律を守ること。(己を戒め、省みること。)

3、忍辱 苦難に耐え忍ぶこと。(我慢すること。)

4、精進 真実の道を絶えず実践すること。(努力すること。)

5、禅定 精神を安定させること。(心を穏やかにすること。)

6、智慧 真実の知恵を得ること。(正しい判断力をもち、本質を正しく見ること。)

 

つまり、この6つの教えは、我々を救い、彼岸(悟りの世界)に行くことができることを示しています。しかし言うのは簡単ですが、我々凡人にとってこれらの事は、実際に常日頃から行うのはとても難しいものです。ですから、仏の世界が最も近づき、仏さまを身近に感じるお彼岸の間にこの生き方を実践することが大切なのです。お彼岸にご先祖様への供養をするということは、亡くなった家族や友人と向き合うということでもあります。故人と関わってきた自分の過去と向き合い、過ごしてきた日々の行いを振り返り、より良く生きるようにすることの大切さを仏さまは六波羅蜜をもって教えてくれているのです。

ぜひ、皆さん、まずは六波羅蜜の実践を日常生活の中で心がけて下さい。千里の道も一歩から。ほんの少しずつでも良い行いを積んでいくこと。その日々のわずかな心がけが、一年後十年後に積み重なり、やがて大きな善行となって、巡り巡って自らに返り、自らを高めていくことができるのだと思います。どうか皆さま方がより良い人生を過ごされますように。

合掌

円乗院