善光寺法話

第14回 十六善神と大般若会

ピーンと張り詰めた寒気に、浸みわたるように読経が堂内に響く。僧侶の吐く息が白い。ことさらに冷え込んだ朝の堂内は、零下5℃を下回る。
そんな夜明けの寒気の中、今朝も熱心な参拝者の合掌の姿が、後を絶ちません。
いつもと変わらぬお朝事の風景ですが、冬の善光寺は、身体の芯から洗い清められるような清冽(せいれつ)感が満ちています。

ご参拝の皆様が本堂に入って、正面から前方を見ますと、お戸帳(とちょう)と呼ばれる金襴(きんらん)のお幕が掛かっており、このお幕の中が御本尊の、一光三尊阿弥陀如来様を安置している瑠璃壇になります。その瑠璃壇の左隣には、縦約1.5メートル、横約1.0メートルの古びたお厨子が置かれ、この中には、十六善神(じゅうろくぜんじん)が納められています。
善光寺によくご参拝される方々でも、この存在をご存じの方は、意外に少ないかもしれません。

十六善神とは、十二神将に持国天、増長天、多聞天、広目天の四天王を加えたものを十六善神としておりますが、その形式には、諸説があります。
善光寺の十六善神は、中央にお釈迦様を置いて、その左右には文殊菩薩と普賢菩薩、お釈迦様のお弟子の法涌(ほうゆう)と阿難(あなん)、そして般若経の伝来に因縁深い玄奘(げんじょう)と深沙大将(じんじゃだいしょう)を置き、その間には、手に刀を持って、大きく口を開けた十六体の夜叉善神を配しており、その数も多く、大変珍しい形式のものです。

そして、十六善神は別名、十六夜叉神、般若守護十六善神などともいわれております。
陀羅尼集経において、
「もし、人この般若波羅蜜多を誦し、聴き、念ずる者あらば、一切の難事に遇いても、我等眷属は行処に随って、これを衛護し、共に相擁護せん。若し、又、般若波羅蜜多の成就を得んと欲する者あらば、我等眷属は、その願を満ぜしめん。」と、説かれており、大般若経とそれを読誦する者を外敵から守護する護法神であります。
従って、大般若経を読む時には、必ず釈迦如来と共に、十六善神を安置したり、またはその画像が掲げられます。

善光寺では、毎月15日、大般若会が厳修されます。その時に、大般若経、正式名称「大般若波羅蜜多経」(だいはんにゃはらみったきょう)の転読が行われます。
転読とは、一つの経典を全て通読する真読(しんどく)に対して、経題や経の初・中・終の数行を略読、主要な部分を拾い読むことをいいます。
「大般若波羅蜜多経」は、全部で六百巻に及ぶ膨大な経典であることから、大般若会の行事は転読でお勤めされております。
大般若経の転読は、本堂外陣の妻戸台にある、直径約3メートルの大太鼓4張と双盤という鐘が一斉に打ち鳴らされ、本堂を揺るがすような大音響の中で行われます。その時、法要の場に座る僧侶が、経巻をパラパラとひもとき、大般若の経典を操る様子はとても珍しく趣きがあります。
そして、僧侶は、一巻、一巻、転読するたびに、「大般若波羅蜜多経巻第○○○、唐ノ三蔵法師玄奘奉詔訳、降伏一切大魔最勝成就」と大声で唱えます。
この、「降伏一切大魔最勝成就」とは、「すべての災いや悪を祓いとり除き、人々の願いをかなえて幸せに導いてほしい」という意味で、皆様方一人一人の除災招福を祈っているものです。
毎月15日に行われる大般若会のご参拝は、善光寺如来様の大慈悲の御心にあずかれるとともに、大般若十六善神のご守護と、ご功徳をいただけるありがたい特別な日であります。どうぞご参拝して下さい。